日刊自動車新聞社

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自動車業界トピックス

令和 新時代を迎えて

注目領域の最新状況を検証

令和の時代がやってきた。平成の30年余りの間には半導体の飛躍的な進化や、世界中へのインターネットの浸透、地球温暖化の進行などで「自動車激変前夜」の状況が準備された観がある。「100年に1度」と言われるように、車と産業はガラリとその姿を変えるのか。はたまた意外にしぶとく不変な部分が残るのか。いずれにしても、どんな分野も固定観念にとらわれず、刻々と移りゆく実態を見続けることが欠かせない。担当記者が各領域の最新状況を検証した。

知能化 データ収集が鍵

 知能化技術が自動車の新たな可能性を広げようとしている。人工知能(AI)技術の進化と半導体の性能向上によって、自動運転の実現に必要な周辺環境の認識や最適な動作を適切に判断することが可能になってきた。米国では米グーグル系のウェイモが、自動運転車を活用したタクシーサービスを2018年末に開始。日本でも18年夏にタクシー大手の日の丸交通(富田和孝社長、東京都文京区)とZMP(谷口恒社長、同)が協力し、自動運転車を用いた公道でのタクシーサービスの実証を行った。両社は20年にも自動運転タクシーを実用化する目標を掲げる。

知能化技術は移動の概念も変えるかもしれない

知能化技術が貢献するのは、自動運転技術の高度化だけではない。タクシーなどの配車を最適化するための予測にも使用され始めている。タクシー配車用プラットフォームを提供する中国の滴滴出行とソフトバンクの合弁会社DiDiモビリティジャパンは、AI技術で乗客の需要を予測している。ディー・エヌ・エー(DeNA)も、AIを活用した需要予測をドライバーに伝えるナビゲーションの導入を予定している。タクシーにかかわらず、需給のマッチングが可能になれば、移動サービスの稼働率向上や収益改善につながる。
 ただ、自動運転にせよ需要予測にせよ、AIが賢くなるのは大量のデータがあってこそ。ソフトバンクとトヨタ自動車の合弁会社モネ・テクノロジーズは、ホンダや日野自動車との提携を発表。さらにコンソーシアムを立ち上げて、小売りや飲食などさまざまな業種とのデータ連携を視野に入れている。知能化技術のカギを握るデータ収集を巡る動きはこれからも活発化しそうだ。

モデルベース開発 膨大な開発作業に不可欠

自動車の開発工数が爆発的に増えるなか、膨大な作業をこなすのに不可欠といわれるのが「モデルベース開発(MBD)」だ。先行するマツダは2010年頃からエンジン開発に採り入れ、車全体、車外環境、人間にまで広げようとしている。
同社によると、MBDとは「開発対象をモデル化して、効率的に最適化する開発手法」。ここで言うモデルとは、知りたい現象を正確に数理・数式化したものを指す。モデルを用いることで、モノを試作することなくコンピューター上でテストしたり、適合開発ができる。

マツダが想定するMBDを活用した
サプライヤーとの連携(マツダ提供)

00年代初頭の深刻な経営不振が、マツダをMBDの前提であるCAE(コンピューター支援設計)に駆り立てた。人見光夫シニアイノベーションフェローは「先行できたのはマツダが貧乏だから」と話す。人手不足をはじめとする課題の数々をボウリングのピンに見立て、一発で倒す「1番ピン」としてCAE強化に目をつけた。CAEで積み重なったデータをロジックで組み立てたのがモデルだ。
重要なのは「試作の前にCAEを使い徹底的に考えること」(人見氏)だという。ガソリンとディーゼルの特性を持つ新エンジンの燃焼解析には、スーパーコンピューターでも丸2日かかった。「実機による開発では、始める気にならなかっただろう」(同)。高度運転支援や自動運転では、一層膨大なシミュレーションが必要になる。車、環境、人間のモデルをつなぎ、一歩先行く開発を目指す。
経済産業省(METI)は17年に、トヨタ自動車、日産自動車、ホンダ、マツダ、大手部品などが参画する研究会を開き、MBD普及のガイドラインをまとめた。MBDを用いた開発効率化の輪は広がりつつある。

売り方 進むか ネット購入

アマゾンなどのインターネット販売が小売り業界を席巻している。多くの消費者がネットで商品を購入する利便性を享受するなかで、クルマもネットでの購入がメジャーとなるのか。
ホームページ上で新車販売を行う米テスラ。国内四つのショールームでも購入は可能だが、リアル店舗とネットの購入比率は半々だという。ネットでの購入手続きは簡単だ。パワートレーンやボディーカラー、運転支援システムの有無などを選択し、クレジットカードでデポジットを支払えば注文は完了する。登録や車庫証明などの手続きはデリバリースタッフが対応し、自動車保険などの相談にも乗ってくれるという。

テスラはネット販売でも先行する

ただ、テスラの場合、中古車業者が紹介する業販の存在も無視できない。高額商品をネットで購入する消費者はまだまだ少数派と言えそうだ。一方、新車購入を検討するユーザーの多くは情報収集のためにネットを活用している。商品特性はもちろん、販売店の評判や値引き情報を事前に調べてから店舗を訪れている。
こうした中、新車ディーラーが独自にネット戦略を展開するケースが目立ってきた。性別や年齢、地域、クルマへの関心の高さなどを特定してバナー広告をピンポイントに掲載し、自社のホームページへと誘導している。
トヨタ自動車の全チャンネル併売化が象徴するように、商品による差別化が難しくなっている。情報があふれる時代、他社との差別化を図るために自らブランディングやマーケティングに着手する必要があり、そのカギを握るのがネット戦略になりそうだ。

※日刊自動車新聞2019年(令和元年)5月1日号より