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自動車業界トピックス

新型「ミライ」を支える新技術 水素社会実現へ世界をリード

サプライヤー各社も開発に力

政府が実現を目指す「水素社会」は、カーボンニュートラル社会の実現、エネルギー安全保障に加え、産業競争力強化の点でも利点が見込める。水素サプライチェーンはエネルギーもモビリティも実質ゼロから立ち上げることになる。それだけに関連機器の開発や量産技術で世界をリードできれば、成長の道が開ける。水素を使うモビリティである燃料電池車(FCV)がゲームチェンジを促す可能性もあり、サプライヤー各社も開発に力を入れる。トヨタの2代目FCV「ミライ」に、各社の本気度が見て取れる。

新型MIRAI 第2世代FCユニットの高効率化・量産化・環境負荷低減を支える技術例

豊田自動織機は、燃料電池(FC)スタックに空気を取り込むコンプレッサーや、化学反応後に排出される水や未反応の水素を運ぶ水素ポンプを開発した。「可動ローラー式増速機構」を用いたコンプレッサーの最高回転数(分速)は約18万4千回転とターボチャージャー並み。中根芳之FCプロジェクト室長は「増速遠心式は他にもあるが、全域で効率良く動くモノは世の中に存在しない」と胸を張る。

新型ミライに搭載される3本の高圧水素タンクのうち、後部の1本を受注したのが豊田合成だ。初代でも「タンクライナー」と呼ばれる半製品を手がけていたが、今回は完成品を新設したいなべ工場(三重県いなべ市)で量産する。FC商用車向けの受注に期待を寄せるほか、水素吸蔵樹脂を使って貯蔵容量を増やす技術も研究中だ。小山享社長は「作りも安くしながら、納入先が(FCVの生産を)増やすのに貢献していきたい」と話す。

トヨタ紡織は、FCスタックに使用するセパレーターや、走るほど空気をきれいにする「マイナスエミッション」の立役者であるエアクリーナーフィルターなどを納入する。セパレーターは、厚さ0.1㍉㍍のチタン板を破かないように、金箔に使われる「展性」技術を応用して加工する。

愛知製鋼は、水素脆化に強い新たなステンレス鋼を開発した。充填ノズルや手動弁などの重要部品に使う。添加剤であるモリブデンを炭素に置き換え、硫黄を添加するなどして従来と同等の耐水素脆化性と強度を保ちながら鋼材のコストを約1割下げ、切削性は向上した。

愛三工業は、水素燃料噴射システムやエア系のバイパスバルブ、入口封止弁などを手がける。従来のダイキャスト技術では「巣」と呼ばれる空洞から水素が漏れかねない。このため、アルミ材を半凝固にして固めるセミソリッド工法を開発した。

野村得之社長は「(当社が)持っている技術をFCVに使ってもらうためのアプローチは今後もしっかりやっていく」と話す。FCスタックのアルミダイキャスト製プレートを納入する大豊工業の杉原功一社長も「成型技術やガスケットで培ったシール技術を持っているし、冷却系もある」と取引拡大に意欲を示す。

水素や燃料電池に関して、日本は1970年代の「サンシャイン計画」から半世紀近い技術の蓄積がある。家庭用燃料電池「エネファーム」を世界で初めて実用化したのも日本だ。世界知的所有機関(WIPO)によると19年までの10年間、日本が出願した燃料電池関連特許件数は約3300件で、2位の米国(約1400件)や3位のドイツ(約800件)を大きく引き離した。2代目ミライや、トヨタなどが発売した外販用FCスタックの量産を機に、こうした強みに磨きをかけ、水素社会実現で世界をリードすることを目指す。

※日刊自動車新聞2021年(令和3年)4月5日号より