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自動車業界トピックス

「WP29」副議長国、日本の課題は? 国際交渉に長けた官民の専門人材を

「技術で勝って基準で負ける」と過去に言われた日本だが、最近は様相が変わってきた。経済産業省主導の「国際標準化戦略」や「標準化官民戦略会議」のもと、産学官の連携や人材育成などが進む。自動車分野でもこうした政策に沿い、自動運転技術に関する基準化と標準化の作業方針を国内ですりあわせる「自動運転基準化研究所」をはじめ、各種の基準・標準団体が連携している。

その成果は明らかだ。例えば、衝突被害軽減ブレーキ(AEBS)や自動運転「レベル3」(条件付き自動運転)に該当する「自動運行装置」について、国土交通省はWP29での議論をリードするとともに、基準案を国内法にいち早く反映させた。21年3月にはホンダからレベル3対応「レジェンド」=写真=が世界に先駆けて発売されている。

ただ、各国の自動車関連法規やWP29の組織は、100年近い歴史を持つガソリン車をベースに構成されている。ソフトウエアや通信技術の比重が増したり、これまで想定していなかった形態の自動車の登場も想定される今後は、猶野室長の言うように、技術進化のペースに負けないよう基準づくりを進め、場合によってはWP29の組織にメスを入れる必要もある。

しかし、国連傘下とは言え欧州主導のWP29は、米中対立などの世界情勢と無縁ではいられない。国際会議では必ずしも優れた技術が選ばれるわけではなく、国益をかけた激しい議論が交わされるからだ。猶野室長が「『こうしたデータがあります』と根拠を持って説得する」というように、世界首位のトヨタ自動車をはじめ、多くの自動車メーカーやサプライヤーを抱える日本は実証データの宝庫だ。ただ、自動車メーカー幹部は「データは競争力の源泉でもある」と話す。このため、経産省は2018年度から「SAKURAプロジェクト」として走行データの収集を支援し、各社共通の資産として活用できるようにした。このプロジェクトがなければ、WP29での発信力も今ほどではなかったかも知れない。

WP29の副議長国として、アジアや途上国との橋渡し役を務めるためにも、日本の自動車業界はこれまで以上に連携し、国際交渉に長けた官民の専門人材も育てる必要がありそうだ。

※日刊自動車新聞2022年(令和4年)12月5日号より