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自動車業界トピックス

ハイパフォーマンスEVの開発が活発

モーターが生むリニアな加減速を価値に EVでも「走る楽しさ」を

内燃機関(ICE)を凌ぐ性能を備えた電気自動車(EV)開発が活発になっている。BMWは高出力モーターを搭載したMモデル「iX M60」を公開。テスラは「モデルSプラッド」で1千馬力以上を発揮する走行モードの展開を開始し、トヨタ自動車はレクサスでハイパフォーマンスバッテリーEVを開発する方針を掲げた。EVにはエンジン音や排気音といった内燃機関ならではの醍醐味はないものの、モーターが生み出すリニアな加減速は電動車ならではの特徴だ。モーターやバッテリーなど電動パワートレインの性能向上という〝チューニング〟が進めば、車の本質的な価値である「走る楽しさ」はEVでも味わうことができそうだ。

レクサスRZ。ハイパフォーマンスバッテリーEVの実現をめざしている

高性能EVに積極的な姿勢を見せるのがドイツ勢だ。BMWはSUVセグメント初のEV MモデルとしてiX M60を開発。ラスベガスで行われた「CES2022」で初披露した。メルセデスAMGは、昨年末にメルセデス・ベンツのフラッグシップEV「EQS」をベースにした「EQS53 4MATIC+」の販売を始めている。

両車に共通するのは2基の強力モーターを車両前後に搭載し、ハイスペックを実現した点だ。最高出力はiX M60が619馬力、EQS53が658馬力、最大トルクはそれぞれ1100ニュートン㍍、950ニュートン㍍を発揮する。EQS53にはオプションとして「AMGダイナミックプラスパッケージ」が用意されており、最高出力は761馬力、最大トルクは1020ニュートン㍍に増強。トルクの立ち上がりが素早いモーター特性を生かし、内燃機関エンジンを凌ぐ強大なパワーを発揮する仕様となっている。

バッテリーにも専用チューニングが施されている。EQS53は直接冷却式のリチウムイオン電池を独自開発。バッテリーマネジメントシステムもAMG専用チューンで、「スポーツ」「スポーツ+」の走行モードではパフォーマンスに重点を置いた制御を行う。

iX M60は蓄電容量111.5㌔㍗時のリチウムイオン電池を搭載。2659㌔㌘の車両重量ながらも3.8秒で時速100㌔㍍まで達するパフォーマンスと、最長566㌔㍍の航続距離を実現した。

14日に開幕した「東京オートサロン2022」では、テスラのカスタマイズカーも展示。EVチューニングカーも増えつつある

エンジン音や排気音を発しないEVならではのサウンドチューニングも採用している。EQS53では「バランス」「スポーツ」「パワフル」モードを設定。音と光、振動を融合させ新しいユーザー体験を提供する。iX M60は「アイコニック・サウンド・エレクトリックシステム」を搭載。走行モードに合った疑似エンジン音を発する。

日本勢ではトヨタがレクサスブランドで反転攻勢に打って出る。豊田章男社長は昨年12月14日に開催した記者発表で「LFAの開発を通じて作り込んだ走りの味を伝承する次世代スポーツカーをバッテリーEVで開発する」と明言した。

レクサス初のバッテリーEVとなる「RZ」については、全固体電池の搭載も視野に入れハイパフォーマンスバッテリーEVの実現を目指す方針を掲げている。

テスラは一歩先を行く。サーキット専用「トラックモード」の展開をモデルSプラッドで始めた。安定制御とハンドリング、回生ブレーキを個別に調整できるようにして、サーキットでの車両制御を最適化するものだ。

トラックモードでは、バッテリーパックとモーターの温度を下げるためシステム全体の冷却性能を高める制御となる。回生ブレーキ力を高め摩擦ブレーキの負荷を減らし熱管理を改善するほか、VDC(ビークルダイナミクスコントロール)の制御も変更。ステアリングやアクセル、ブレーキの入力を評価し、タイヤの滑りを許容、トルク分割を自動調整することでドライバーの操縦性を高める。

メーターもトラックモードに合わせたグラフィックとなる。サーマルモニターやラップタイマー、Gメーター、車両テレメトリーなどが追加表示される仕組みだ。

トラックモードは今後もOTA(オーバー・ジ・エア)を通じてアップデートされるという。EV時代の走る楽しさ―。それはハードウエアのみならず、ソフトウエアのチューニングでも実現されることになる。

※日刊自動車新聞2022年(令和4年)01月15日号より