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自動車業界トピックス

世界で進むEV充電網整備、普及の決め手にはならず

適地設置や税制支援が不可欠

カーボンニュートラル社会の実現に向けて電気自動車(EV)の普及を後押しするため、世界各国市場でEV用充電インフラの整備が加速している。特に日米欧中では政府が主導して充電設備の拡充にまい進する。EVが普及するための〝障害〟を取り除く狙いだ。ただ、これまで実績を俯瞰すると、公共用のEV向け充電インフラの整備状況とEVの普及が比例しているとは言い難いのが現状だ。

地球温暖化を防止するため、世界的に脱炭素化に向けた機運が高まり、運輸部門が全世界の二酸化炭素(CO)排出量の約2割を占めるとされていることから電動車シフトが加速する見通しだ。EVが普及するのに欠かせないのが、きめ細かな充電ネットワークの構築だ。

充電設備の最適配置がEVの利便性を高める(写真はイメージ)

景気対策として総額2兆㌦(約220兆円)規模のインフラ投資計画を打ち出した米バイデン政権は、全米に50万カ所のEV用充電施設を整備する計画を打ち出した。米エネルギー省のまとめでは、2019年時点で全米のEV用の公共充電器の設置数は7万8千基レベル。現在は、環境対策に先進的なカリフォルニア州では整備が進むなど地域的に偏っているが、今後は全米で充電インフラが整備される見通しだ。

燃費規制が厳しい欧州市場は、すでにガソリンスタンド数を超えるEV用充電器が設置されているが、欧州自動車工業会(ACEA)などは29年までに300万基のEV用充電器の整備が必要との試算を公表。欧州委員会がまとめた経済復興に向けた「欧州グリーンディール投資計画」の中でも、EV用急速充電器の整備を官民連携で推進することが盛り込まれている。

日産自動車と三菱自動車が約10年前に量産型EVをいち早く投入した日本市場では、補助金なども活用して全国にEV向け公共用充電器が整備されてきた。EV用充電器の設置箇所は12年時点で普通・急速を合わせ約6千基だったが15年以降、急ピッチで整備が進み、19年には3万基超に達した。近年、トータルの設置数は頭打ちとなっているが、政府は自動車の電動化を促進するため、30年に現在の5倍となる15万基に増やす目標を「グリーン成長戦略」に盛り込んだ。

経済産業省によると、世界最大のEV市場である中国の19年末時点でのEV・プラグインハイブリッド車(PHV)の累計販売台数が334万9千台、充電器設置箇所が51万6千基に上り、設置数で見ると日米欧を大きく引き離している。

一方、EVに対する公共駐車場の無料化などの優遇措置によってEVの販売が好調なノルウェーの場合、EV向け充電器数は9千基で、EV・PHVの累計販売台数が32万9千台。EV・PHV累計販売台数1台当たりの充電器数で見ると日本が0.1基なのに対してノルウェーは0.03基と、日本より少ない。それでもノルウェーの直近の新車販売のうち、EVの販売比率が過半を占めており、EV販売比率が1%程度の日本市場と大きな差がついている。

カーボンニュートラル社会の実現に向けて重要視されているEVだが、充電インフラの整備を加速するだけで普及させるのは難しい。日本自動車工業会の豊田章男会長は「数だけを目標にしてしまうと、設置できる場所に設置していくことになり、結果として使い勝手が悪いということになりかねない」とし、需要のある場所に充電器を整備していく必要性を強調する。

また、中国やノルウェーでEVの販売が好調なのは、税制優遇などの各種の支援策によるところも大きい。商品ラインアップの拡充にとどまらず、実態を見据えてEVを普及させるための効果的な政策を実行できるかが、日本のカーボンニュートラル実現の鍵を握る。

※日刊自動車新聞2021年(令和3年)6月11日号より