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自動車業界トピックス

国交省「道路におけるカーボンニュートラル推進戦略」の中間とりまとめ

道路分野の排出量と削減目標値には大きなギャップ

世界で地球温暖化への対応が進められる中、日本も2020年10月に当時の菅義偉首相が所信表明演説で「2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、すなわち50年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す」と宣言し、気候変動問題に国を挙げて対応する決意を表明した。こうした方針の下、21年10月に「地球温暖化対策計画」が閣議決定され、国土交通省でも21年12月に「環境行動計画」をまとめ、持続可能で強靭なグリーン社会の実現へ効果的かつ効率的に対応していくとした。こうした流れを受け、道路分野でも「道路におけるカーボンニュートラル推進戦略」の中間とりまとめを行った。

道路におけるカーボンニュートラルの実現には、関係機関との連携や他分野との共創領域の深掘りなどが不可欠

日本の20年度の二酸化炭素(CO)排出量は10.4億㌧(CO換算、以下同じ)。国交省所管の道路整備などインフラ分野のCO排出量は6.4億㌧で、国内排出量の約62%を占める。地球温暖化対策計画で国交省所管施策の30年度削減量目標が約5300万㌧とされる一方、道路を走行する自動車からと道路事業のライフサイクル全体の排出量などを含めた道路分野での21年度排出量は約1.75億㌧で、国内排出量の約16%を占める。同計画の道路分野単独での30年度削減量目標値が約240万㌧に過ぎないことから、排出量と目標値に大きなギャップがあり、カーボンニュートラル実現のためには道路交通分野の果たすべき役割は大きい。そのため運輸部門だけでなく産業部門なども含めた、道路分野における取り組みの加速化と他分野との共創領域の深掘り、関係機関とのさらなる連携が不可欠となる。

カーボンニュートラル実現への取り組みにはテレワークの普及や少子高齢化の進展などの社会的変化、カーボンニュートラルへの技術的な進歩が想定され、それらの動向を踏まえて取り組む必要がある。また、新技術の開発をはじめとする技術的手法だけでなく交通需要マネジメント(TDM)の手法も総動員し、①道路交通の適正化~旅行速度の向上と車両の低速化による適正化②低炭素な人流・物流への転換③道路交通のグリーン化④道路のライフサイクル全体の低炭素化―の4つを柱に取り組んでいく。

道路交通の適正化では、三大都市圏の環状道路や地方部の高規格道路の整備、四車線化といった大都市圏・地方部における道路ネットワークの構築で生産性を高め、旅行速度の向上を図るとともに、CO排出が少なくなる走行環境を整備する。また、バイパス整備などに加え、道路の交差点の改良、沿道施設へのアクセスに関する道路交通アセスメントなどの取り組みで市街地などにおける渋滞ボトルネックを解消し、交通の円滑化を図る。さらにはETC2.0などを活用した効果的な情報提供を行うことで道路利用者の効率的な移動を実現し、観光地などにおいては駐車場予約サービスやパークアンドライドなどの導入で空き駐車場を探して移動する「うろつき交通」を抑制する駐車場予約システムの充実なども図る。加えて、ETC2.0などの各種データに基づき道路のサービスレベルをきめ細かく分析し、料金施策を含めたTDMで特定の時期・時間帯・方向に偏在する交通需要を分散させる取り組みを社会全体で推進する。

自動運転移動サービスは、地域公共交通の維持や車両の最適な制御による交通の適正化によってCO排出量の抑制・削減が期待される。こうしたことから、交差点センサーなどの実証実験を通じ、その実現・普及拡大に向けた取り組みを推進する。また、物流課題の解決につながる自動運転トラック実現のため、新東名高速道路や東北自動車道などにおいて自動運転車用レーンを設定し、合流支援情報や工事規制情報の提供などに関する取り組みを推進することで、車両の最適制御による交通の適正化を図る。

低炭素な人流への転換では、電動キックボードなどの新たなモビリティの開発・活用が進んでいることから、トリップ長5㌔㍍以下の比較的短い距離の移動時に新たな小型モビリティを活用される環境整備を図る。シェアリングサービスの普及による多様なモビリティの利用機会も創出し、新たなモビリティに対応したモビリティハブなどの交通結節拠点の整備も推進。民間事業者が所有するプローブデータを含めた各種データを活用し、新たなモビリティがまちに及ぼす影響を分析し、多様なモビリティの利用環境の向上を図る。

公共交通の利用促進も渋滞対策となるだけでなく人の移動を効率化し、CO排出削減につながる。バス高速輸送システム(BRT)などの公共交通の導入支援のほか、自動運転の活用も視野に入れ、鉄道、バス、タクシーなどの交通手段をつなぐさまざまな規模・タイプの交通結節拠点を整備し、MaaS(サービスとしてのモビリティ)を活用した公共交通などとの連携を進め、自動車から公共交通への転換を進める。地域公共交通の維持および促進の観点からも自動運転の実現に向け、交差点センサーなどを活用した実証実験・実装への取り組みなどを進める。

低炭素な物流への転換では、輸送量の向上や輸送の効率化を進める。1台で従来型トラック2台分の輸送が可能なダブル連結トラックの利用により、トラック輸送の省人化や輸送の効率化が図られるとともに走行時のCO排出量が削減されることから、物流事業者による利用を促進するための利用環境の整備を推進。運行状況や事業者のニーズを踏まえ、対象路線の拡充を検討するとともに、ダブル連結トラックに対応した駐車マスの整備や特殊車両通行手続きの迅速化を図る。さらに自動運転トラックの実現に向け、自動運転車用レーンを設定し、合流支援情報や工事規制情報の提供などに関する取り組みを推進する。高速道路のサービスエリア・パーキングエリア(SA・PA)において機能高度化施設(自動運転車両の拠点施設)と一体となり整備される駐車場の整備費用の一部を支援する制度も活用し、官民の役割分担の下、高速道路における自動運転の拠点施設整備を図る。

トラック輸送に比べて大量輸送が可能な鉄道や船舶の輸送はCO排出量が少なく、300㌔㍍以上の中長距離輸送でトラックなどで行われている貨物輸送を鉄道や船舶の利用へと転換するモーダルシフトを行う。こうした物流輸送を効率化するため、物流の利用量・取扱量の増加が図られるなどの機能強化を行っている空港や港湾、貨物駅などの交通拠点へのアクセス道路の整備を支援する。

道路交通のグリーン化では、電気自動車(EV)や燃料電池車(FCV)などの次世代自動車の普及促進には自動車メーカーなどによる研究・開発が重要なため、経済産業省などの関係機関と連携し、開発を促進する。大型の次世代自動車の普及も後押しするため、物流拠点を結ぶ主要な道路などを対象に大型次世代車の寸法などの大型化の動向を確認した上で、車両の幅や長さなどの一般的制限値の緩和や道路構造の基準見直しなどを検討する。また、再生可能エネルギーを道路管理に活用するため安全かつ円滑な道路交通の確保を前提に、管理施設などの建物の上や道路敷地など道路空間への太陽光発電設備の導入を推進する。再エネのさらなる活用に向けては、今後の技術開発の状況を踏まえ、路面太陽光発電やペロブスカイト太陽電池などの次世代型太陽電池の導入可能性などを検討。道路空間やその周辺で風力などの太陽光以外の再エネ活用を検討する。

EVの普及に当たっては目的地までの走行距離が長い場合も想定し、移動経路上での充電(経路充電)の環境構築が重要である。高速道路における充電環境充実のため、SA・PAにおける急速充電器について、充電事業者などが行う充電器の設置を促進する。また、給電環境を拡大するため、高速道路の路外に設置された急速充電器も利用できるように新たな課金・決済の導入を検討。道の駅においても、充電事業者などが行う充電器の設置を促進するとともに、充電施設案内サインの整備など充電環境を充実する。このほか、走行距離に課題があるEVが安心して移動できる環境を実現するため、走行中給電システムの技術開発を支援。導入可能性を幅広く検討するとともに、FCVの普及促進に向けて事業者と連携し、水素ステーションの設置場所の提供などに協力する。

道路のライフサイクル全体の低炭素化では、道路橋や舗装などについて予防保全の観点から計画的・集中的に長寿命化を図り、インフラの更新頻度を減らすことでCOの排出削減を目指す。さらに、新技術の活用などで道路のライフサイクル全体の長寿命化などを図るほか、CO排出量の少ないLEDの道路照明や通行状況に応じて調光制御(センサー照明)などを導入して道路照明の高度化を図る。特に直轄国道では、30年度の道路照明のLED化概成を目指す。さらに道路管理用車両から排出されるCO排出量を削減するため、パトロールカー、その他の大型車、特殊車両に次世代自動車を導入する見通しなどを作成し、次世代自動車の導入を積極的に推進する。

※日刊自動車新聞2023年(令和5年)11月20日号より