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自動車業界トピックス

整備業界、急速な技術進化で関心高まるM&A

業容拡大、シナジー追求による収益向上、経営基盤の安定化見込み

整備業界で事業者間の合併・買収(M&A)に対する関心が高まっている。自動車業界の技術革新のスピードは目覚ましく、進化に対応できない多くの整備工場が廃業を検討している。深刻化するメカニック不足や経営者の高齢化と後継者難も追い打ちをかける。一方で、買収に踏み切った整備事業者は自社の業容拡大、シナジーの追求による収益向上、経営基盤の安定化などが見込める。さらに、大手企業による事業の多角化で整備事業者を子会社にする事例も出てきている。譲渡先を探している整備工場は少なくないと見られ、今後も整備業界でM&Aが活発に展開される確率は高い。

経営統合でコスト低減効果も

自動車業界では先進運転支援システム(ADAS)機能の進化が続き、今後も搭載車が増え続けることは確実だ。4月に「特定整備」制度がスタートし、電子制御装置整備で必要な「整備主任者等資格」の取得が必要になるなど、ADAS搭載車の受け入れ体制を整えることが急務となっている。整備事業者が事業譲渡を決断する理由はさまざまだが、設備投資などを行いうる経営体力の不足が背景にある。

M&Aを検討する事業者にとっては、経営の多角化を推進できるのが大きなメリットだ。板金塗装の井組自動車(井組浩紀社長、横浜市青葉区)は、2019年12月に斎藤興業自動車(横浜市旭区)を買収した。整備工場が3拠点に増えたことで、顧客接点の拡大や業務の効率化などを図った。井組社長は「分解整備事業者を取り込むことで、板金塗装から車検まで顧客の取り込み間口を広げることができた」と話す。

オートバックスセブンは19年6月に正和自動車販売(滋賀県栗東市)、20年4月に高森自動車整備工業(三重県津市)の2社を、イエローハットは10月に溝ノ口自動車(川崎市宮前区)をそれぞれ子会社化した。ともに整備事業の強化に向けた取り組みの一環で、スケールメリット追求による効率化と用品販売との相乗効果を狙う。

買収によって新たな整備士確保にもつながる。特に、地方では人口減少や少子高齢化が著しくメカニック不足が都心部より着実に進行している。三隅自動車商会(石川貴之社長、山口県長門市)は、15年に塩瀬自動車(山口県長門市)を、17年にマルオ(山口県萩市)をそれぞれ子会社化した。一体感の醸成には時間が必要だが、石川社長は「メカニックをヘッドハンティングするより会社全体を買収する方が効率的で、結果的にはコストが安くなる」と話す。

とはいえ、M&Aには相応の資金、労力、時間が必要で整備事業者にとってハードルが高いことも確か。M&A後に異なる企業文化やスタッフの融合を推進し、収益を引き上げるのも簡単ではない。二村自動車(二村一弘社長、広島市安佐南区)は、ここ数年で相次いで県内の4社を買収した。「仮に売り上げが下がっても自分自身が買収先の企業から給料をもらうつもりはなく、前経営陣の給与や接待交際費など年間相応のコストを低減できるので黒字化できる確率は高い」(二村社長)という。

※日刊自動車新聞2020年(令和2年)12月17日号より