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自動車業界トピックス

日本メーカー、北米でEV投資本格化

市場停滞時に遅れをばん回

トヨタのインディアナ工場

日系自動車メーカーによる電気自動車(EV)や車載電池の生産体制づくりが北米で本格化する。ホンダは、カナダにある既存工場の隣接地にEVと車載電池の工場を新設する。トヨタ自動車は米ケンタッキー州に続き、インディアナ州にある工場へのEV投資を発表した。米国のEV市場は成長が鈍化し、ゼネラル・モーターズ(GM)やフォード・モーターが開発や投資を見直しているが、日系各社はEVシフトへアクセルを踏み込む。

「短期的には停滞感があるとはいえ、カーボンニュートラル(温室効果ガス排出実質ゼロ)を目指す上で最適な方法がEVであることに変わりはない」(ホンダ・青山真二副社長)─。

ホンダのカナダ工場

四輪車事業で米国が収益の柱となっているホンダは、米国でのEV生産体制づくりの検討を急ピッチで進めてきた。2025年からオハイオ州にある既存工場でEVをガソリン車の生産ラインで混流生産することをすでに決めているが、今回、約1兆7千億円を投じてカナダ・オンタリオ州でEVと車載電池の生産体制をつくることを決めた。

電池材料は素材メーカーと合弁生産する。カナダの州政府などから補助金も受けるため、ホンダグループとしての投資は全体の6~7割程度に抑えられる。それでもホンダの生産拠点当たりの投資額としては過去最大だ。40年までに内燃機関から撤退することを決めているホンダ。カナダの新工場は、EV専業メーカーに生まれ変わる覚悟を示す象徴的な拠点となる。

同じく米国事業のシェアの高いトヨタも、EVや車載電池の生産体制を着々と整備している。すでにトヨタ・モーター・マニュファクチャリング・ケンタッキーで3列シートのSUVタイプのEVの生産を決定しているが、インディアナ工場にも約2200億円を投じ、ケンタッキー工場で生産する車種とは別の3列シートSUVタイプの新型EVを26年から生産する。

トヨタはEVなどの車載電池工場を米国ノースカロライナ州に建設中だ。さらにLGエナジーソリューションが米国ミシガン州に建設する工場で製造する車載電池を年間20ギガワット時分、調達する契約も結んだ。完成車に加え、車載電池を現地調達する体制の整備に本腰を入れる。

米国では、日産自動車がすでにテネシー州にあるスマーナ工場でEV「リーフ」と車載電池を生産している。同社も、現地生産するEVを増やしていく方針だ。販売台数と収益の両方とも北米に依存するスバルも、27年にもEVを現地生産することを決めており、インディアナ州にある既存工場を含め、現地生産体制の検討を急いでいる。

ただ、米国のEV市場は踊り場にある。GMやフォードが新型EVの開発スケジュールを遅らせているほか、EV専業のテスラは業績悪化で従業員の削減に踏み切る。さらに米国バイデン政権は事実上、自動車メーカーに一定のEV販売を義務付ける規制を緩和した。今秋の大統領選を控え、EVに否定的な全米自動車労組(UAW)の支持を得たい思惑も透ける。

市場も政策的にもEVに逆風が吹くが、日系各社はEV投資を本格化する。トヨタは「選挙や政策よりも、市場の需要予想を前提に計画を立てており、今回もその通りに投資しているだけ」と説明する。巨額投資を決めたホンダも含め、EVシフトの減速は「想定の範囲内」で、将来的に米国市場でEVの普及は着実に進むとの見方は強い。

日系各社はEVシフトに出遅れたが、ここ数年は電動車の開発や生産投資を増やしている。インフレ抑制法(IRA)では、EV、車載電池と材料の北米生産が税優遇の条件だ。EV市場が足踏みしているうちに生産体制を整え、ライバルに追い付くためにも、今の投資判断が将来の北米事業を大きく左右する。

ただ、大統領選に立候補するとみられるトランプ前大統領が勝利した場合「米国でのEV普及はさらに遅れる」と指摘する声もある。トヨタ、ホンダは一定のリスクを覚悟しつつ、EVシフトでこれ以上の遅れを取らないための投資に打って出る。

※日刊自動車新聞2024年(令和6年)4月30日号より