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自動車業界トピックス

EV充電サービス、補助金の獲得戦略が曲がり角 今後は「利用率」が焦点

精緻な設置計画は引き続き必要に

EV用充電器は利用率も重視される段階に入った

電気自動車(EV)用の普通充電器を主力としている充電サービス事業者の事業戦略が、転換点を迎えている。各社は国の補助金を前提にしたビジネスモデルとなっているが、一部で先に補助枠だけを確保しようとする動きが相次いだ。このため、2023年度は予算が早期に枯渇。国は9月上旬に受け付けを始めた「予備分」の補助金で、充電器の設置口数に上限を設けるなど要件を厳格化した。事業者側は今後、実態の伴う設置計画の立案が求められるようになる。ただ、これまでのような激しい申請競争ではなくなるとみられ、事業者からは制度変更を歓迎する声が目立っている。

充電器の過剰設置による補助金の早期不足を、早くから指摘していたエネチェンジ(城口洋平社長、東京都中央区)。同社は6月に、補助要件の変更などを盛り込んだ要望書を国に提出しており、国の決定を好意的に受け止めている。テラモーターズ(上田晃裕社長、東京都港区)の徳重徹会長も「当社にとっては追い風だ」と語る。

歓迎ムードの事業者が多い背景には、これまで補助金の申請競争があまりにも激しくなっていたことがある。国は「クリーンエネルギー自動車(CEV)の普及促進に向けた充電・充てんインフラ等導入促進補助金」として、23年度当初予算と22年度補正予算で約300億円を確保していた。しかし、申請書類などに若干の不備があったとしても、申請が早いほど補助金が確保される仕組みだったため開始直後から申請が殺到。ある事業者は「今年の補助金はいかに人員をそろえ、大量の書類を早く処理できるかの勝負だった」と、振り返る。このため、人海戦術を採らざるを得ない事業者も少なくなく、負担増を招いてしまっていた。

消費者も充電器の補助制度に関心を示す(写真は集合住宅への充電器設置に関する相談会

9月上旬に始まった予備分では、普通充電器のタイプごとに口数の上限や駐車場の収容台数に対する制限が設けられた。補助金の交付も金額の審査を経て決定する方式に変わった。テラモーターズの徳重会長も「(新たな要件で)審査を通過することで金額などが把握しやすくなった」と、評価している。

国は充電インフラの整備に向けた新たな指針の中で、24年度以降の普通充電器の補助金を、予備分の執行状況を踏まえて決定する旨を盛り込んだ。来年度以降も申請の過当競争を防ぐことで、適切な充電網の構築を促す意図が透ける。今後も、事業者側に精緻な設置計画などが求められる構図は変わらないとみられる。

こうした中で、エネチェンジの千島亨太執行役員CEO室室長は、「今後の普通充電は利用率が重要になる」と分析している。国が高い成果を求める中で、「補助金の口数に上限があっても、利用実績によって補助額が増額される制度もあり得るだろう」とみているためだ。これからは単純な充電器の設置だけではなく、充電器一つひとつのマネジメントの重要性が高まっていく可能性がある。

こうした流れを察知し、すでに専用アプリケーションの開発・運用などで、充電の利便性を高め、利用率向上に取り組む動きも出ている。この一社であるユアスタンド(浦伸行社長、横浜市中区)のデニス・チア執行役員は、「充電器は社会のインフラ。長期的なビジョンを持って稼働率を高めていきたい」と強調する。いずれにせよ、充電サービス各社には、より中長期の目線で事業戦略を練ることが重要になっていくのは間違いなさそうだ。

(舩山 知彦)

※日刊自動車新聞2023年(令和5年)9月28日号より