企業イメージや人材育成に好影響
モータースポーツがディーラー経営に浸透してきた。コンマ1秒を競う熾烈な競争環境は整備士の育成やリクルート活動に極めて有効で、自前のレーシングチームで参戦したり、ディーラー整備士をレースメカニックとして派遣するなど、さまざまな取り組みが全国で行われている。ディーラーによるモータースポーツ活動は、企業経営に好影響をもたらすだけではない。車のコモディティ化によって忘れ去られがちな「走る楽しさ」「操る喜び」といった本質的な魅力を一般ユーザーに伝え、車のファンづくりを販売現場から支えるという重要な役割を果たしている。
整備スタッフに与える影響絶大
ディーラーがモータースポーツ活動を行うメリットは、「整備士の育成とモチベーションアップ」「リクルート活動の支援」の2つだ。とくにディーラーの工場で働く整備士に対する効果は絶大で、迅速で確実な作業が求められるレース現場を経験することは、整備士人生を送る上で大きな糧になる。点検整備や車検がメーンのディーラー工場の業務では得られないスキルやノウハウを習得することができるからだ。
モータースポーツは整備士としてのモチベーションアップにも直結する。車やレースが好きで整備士をめざし、ディーラーに就職する若手もいる中で、業務としてレースに携われる環境が会社にあれば、働く喜びに結び付く。ただ、会社のモータースポーツ活動に参加するには、日常業務において一定の成果を出すなど課題を設けているケースも多いため、日常業務に対するやる気、モチベーションの醸成にもつなげられる。
また、モータースポーツに携わることは、1人の整備士としてのレベルアップにつながるだけでなく、「チームワーク」という意識が高められるメリットもある。監督やドライバー、エンジニア、メカニック、レースクイーンも含め、チーム一丸となって勝利を目指す一体感は、ディーラーにおいても店長や営業スタッフ、整備士が一丸となって顧客に向き合う大切さを教えてくれる。
整備士育成と並ぶ、モータースポーツ活動のメリットとなっているのがリクルート支援だ。とくに整備士採用においては「レースをやっている会社だから志望した」と話す学生も増えているという。
レース活動がリクルートの広告塔に
少子化の影響や若者の車離れによって整備士不足は年々深刻さを増している。整備士の確保は一般整備工場のみならず、自動車メーカー系列のディーラーでも大きな経営課題となる中で、モータースポーツ活動はリクルートにおける強力な広告塔になり得る。もちろんレース参戦費用は必要になるが、それ以上に、将来の整備士を確保できる観点では、これほど有効なリクルーターはいないかもしれない。
モータースポーツ活動を積極展開するディーラーが増えていることで、販売店レベルでのイベントも活発になっている。オーナー向けのサーキット試乗会やレース観戦ツアー、レーシングカーを使った子供向けの整備士体験なども全国各地で行われている状況だ。
※日刊自動車新聞2023年(令和5年)7月28日号より