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モータースポーツトピックス

活況呈するモータースポーツ活動  整備人材育成や採用の切り札に

安定した経営につながる事業活動に

ディーラーがモータースポーツに関わる形はさまざまだ。大阪トヨペット「OTGモータースポーツ」、埼玉トヨペット「グリーンブレイブ」、岡山トヨペット「K-tunesレーシング」のように自前のレーシングチームを立ち上げ、国内最高峰のGTレース「スーパーGT」や耐久レース「スーパー耐久」などに本格参戦するディーラーもあれば、ワンメイクレース「86/BRZレース」など参加型の草の根レースに挑戦する神戸トヨペットや神奈川トヨタといったディーラーもある。
 今でこそ活況を呈するディーラーのモータースポーツ活動だが、以前は「なぜ稼ぎ時の週末に、メカニックを取られ、金だけを使うレースをする必要があるのか」と疑問を呈する声も少なくなかった。
新車を売り、アフターサービスで収益を確保することが本業のディーラーにとって、「モータースポーツ活動は経費の無駄使い」とまで言われ、後ろ向きに見る経営者が多かったのも事実だ。
ただ現在は、その様相は大きく変わり、経費の無駄遣いどころか、将来にわたる安定したディーラー経営につながる事業活動として認識している経営者が確実に増えている状況にある。
ディーラーが手掛けるモータースポーツ活動のメリットは大きく2つあると言える。「整備士の育成とモチベーションアップ」「リクルート支援」だ。
 技術向上やモチベーション醸成に

中でも整備士に対する効果は大きい。1千分の1秒を競い、迅速で確実な作業が求められる過酷なレース現場を経験することは、ディーラー工場の業務では得られないスキルやノウハウを習得することができるからだ。
その能力はレース現場だけで生かされるものではなく、日常業務でこそ発揮できるものであり、整備士個々人の能力向上につながるだけでなく、チームワークによって勝利を目指すレースチームの一体感を販売店の現場にもたらメリットもある。
モータースポーツ活動は整備士のモチベーションアップにもつながる。レース好きが高じて整備士をめざす若者もいる中で、仕事としてレースに携わることができる環境が会社に整っていれば、働く喜びにも結び付く。
ただ、会社が行うモータースポーツ活動に参加するには、日常業務において一定の成果を出すなど複数の課題を設けているケースも多いため、日常業務に対するやる気、モチベーションの醸成にもつなげられる。
ディーラーがモータースポーツ活動を手掛けることで、大きな効果を生み出しているのがリクルート活動だ。特に整備士採用においては「レースをやっている会社だから」と志望理由を話す学生が目立って増えている。
自動車離れが深刻化し、整備士を目指す若者が減少する中で、整備士の確保はディーラーや一般整備工場も含めて大きな業界問題となっている。こうした環境下で、整備士をめざす学生を採用できるチャンスを生み出すことが、モータースポーツ活動を行うことでよってできるのだ。
モータースポーツはリクルートにおける有効な広告塔。確かに足元ではレース活動費用が必要かもしれないが、将来の整備士確保という観点で、これほど有効なリクルーターはいない。
 レーシングチームも育成サービスを展開

こうしたディーラーのモータースポーツ活動を支援しようと、専門のレーシングチームも動き出している。老舗レーシングチームのトムスは、トヨタ系ディーラーを対象に同社のレーシングチームにディーラーメカニックを帯同させる整備士育成サービスを19年から展開中。過去2年はコロナ禍の影響で対応できない状況だが、タイヤ管理やマシン清掃などサーキットでの実作業をチームスタッフとして体験してもらっている。
また、昨年から実施しているF4マシンを使った体験プログラム「フォーミュラカレッジ」も活用している。ディーラー貸し切りで行い、「走行だけでなくメンテナンス性についての講習も行うなどトムスならではの研修も提供している」(同社)状況だ。
ディーラーにとってモータースポーツは、人材育成はもとより、整備士確保の観点からも欠かせない経営活動となっている。CASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)やMaaS(サービスとしてのモビリティ)の進展で自動車そのものへの関心が薄れる中、顧客の最もそばにいるディーラーがモータースポーツに取り組むことは、走る楽しさや喜びといった車がもつ本質的な価値を提供することにつながる。
それはトヨタ自動車がモータースポーツを通じてユーザー満足度の向上とファンづくりを系列ディーラーの命題として掲げた理由にも通ずる。

※日刊自動車新聞2022年(令和4年)7月21日号より