2050年に温室効果ガスを実質ゼロとする政府目標に向け、今後約10年間にわたるエネルギー政策についての議論がスタートした。経済産業省は総合資源エネルギー調査会の基本政策分科会に産業界や労働界の団体を招き、ヒアリングを実施。このうち、経団連の越智仁副会長は「産業、民生、運輸など需要側も抜本的な構造転換を図る必要がある」と指摘。エネルギー供給側の対策を含めて「野心的なイノベーションの挑戦が求められる」とし、国際競争力を高めるためにも「国としてさらなる支援が必要」と要望した。分科会では各界の意見を踏まえ、次期「エネルギー基本計画」の策定に生かす。

FCV普及や再生可能エネルギー活用に関する支援の要望が挙がった(写真はイメージ)

今回のヒアリングでは経団連のほか、日本化学工業会と日本商工会議所、連合、全国消費者団体連絡会の5団体が意見や要望を表明した。5団体はともに、50年のカーボンニュートラルを打ち出した政府の姿勢を高く評価した。加えて、今後のエネルギー政策では「S+3E(安全性の確保を前提とする安定供給、経済性、環境)」をベースとしていく考え方もそろって示した。

その上で経団連では脱炭素化の鍵の一つを握る水素社会の実現について、安価で大量供給を可能とする技術確立と並行して燃料電池車(FCV)の普及といった需要創出にも取り組む必要があるとした。また、企業側には化石燃料を前提とした生産工程の転換も求められるとし、新技術の確立だけでなくインフラの置き換えなどのコスト負担が増すとした。こうした追加負担が、国際的な産業競争力に影響が出る恐れもある。このため、一部を国民負担とするよう「政府が国民に誠実に説明すべき」との考えも示した。

今後、コスト高の再生可能エネルギーの調達比率が高まるのは間違いない中で、日商は中小企業への支援強化を求めた。日商の三村明夫会頭は「東日本大震災以降、電気料金は約23%上昇している」とした上で、「80%以上の(中小企業で)価格転嫁が困難としている」との調査結果を示した。運輸業など需要サイドでの対応も必須となる中、「設備投資の補助、税制や資金調達上の優遇措置などが強く求められる」とし、大手に比べて企業体力に限りのある中小事業者にも配慮した政策づくりを要望した。

脱炭素化に向けて産業構造の転換が見込まれる中、連合の神津里季生会長は「移行期に労働や雇用への負のインパクトを最小化しなければならない」と訴えた。神津会長は自動車産業について、世界の趨勢が電気自動車(EV)に向かう中「日本の技術力が世界トップだったとしても、部品点数が少なくなれば相当な雇用に影響がある」と指摘。人手の足りない産業などへの「失業なき労働移動が大きな鍵となる」と、「雇用のセーフティーネット」づくりの重要性も訴えていた。