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連載「採用戦線’24」(2)賃上げ機運 初任給引き上げ6割 売り手市場で争奪戦が激化

賃上げ機運の高まりは、採用活動に影響しているか。日刊自動車新聞が自動車部品メーカー93社を対象に実施したアンケート調査では、約6割の企業が「新卒採用を意識した初任給の引き上げを行った」と回答した。年功的な賃金体系ではもはや、能力や意欲のある人材を惹きつけることは難しい。圧倒的な売り手市場の中、初任給をはじめとする待遇の改善により、採用競争力を高めようとする動きが各社で見られた。

今春闘では、高水準の要求に満額回答が相次いだ(デンソーの入社式)

■競合の動きに注目

アイシンは、大卒初任給を3万円引き上げ、25万8千円とする。ほかにも、芦森工業や太平洋工業、椿本チエイン、東海理化、NITTAN、ボッシュなど、半数以上の企業が初任給を引き上げた。回答時点では引き上げを決定していないものの「採用競争力強化の観点で検討中」(トヨタ紡織)、「今後引き上げる予定」(東プレ)など、引き上げを検討する企業も多い。

この背景には、少子高齢化に伴う売り手市場の継続で、人材争奪戦が厳しさを増していることが挙げられる。採用競争力を高めるため「世間の動向を鑑(かんが)みた賃上げを実施」(アルプスアルパイン)、「同規模の会社、プライム市場企業の基本給の調査を行った」(アーレスティ)など、各社は社会情勢や他社の動きを踏まえ、賃上げに打って出る。

■若手社員の待遇も改善

新卒だけでなく、若手社員の処遇改善で人材定着に取り組む傾向も見られた。「25年卒に向けて20代の処遇引き上げを行った」(オーハシテクニカ)、「若手社員にベースアップ(ベア)の配分を高くした」(ユニプレス)、「若い世代でも、高い成果を達成した社員には高い昇給額が得られるようにした」(曙ブレーキ工業)などだ。

物価高や人手不足を受け、賃上げ機運はかつてない高まりを見せている。連合(芳野友子会長)がこのほど発表した24年春季労使交渉(春闘)の第3回集計結果では、ベアと定期昇給を合わせた賃上げ率の加重平均が5.24%と、昨年の同時期を1.54ポイント、上回った。中堅・中小組合が健闘し、高水準の回答が続いているという。

こうした動きは自動車業界でも顕著だ。自動車総連(金子晃浩会長)の春闘回答状況では、平均賃上げ額が1万3896円と、じつに50年ぶりの高水準となった。トヨタ自動車系部品メーカーが加盟する全トヨタ労働組合連合会(西野勝義会長)でも、デンソーなど各社で満額回答が相次いだ。

一方で、厚生労働省「賃金構造基本統計調査」では、製造業の昨年6月の平均賃金が30万6千円なのに対し、情報通信業は約38万円、学術研究、専門・技術サービス業は約39万円だった。製造業の賃金水準は他の業界に比べて決して高いとはいえない。

電動化やSDV(ソフトウエア・デファインド・ビークル)に対応するには、理工系人材やデジタル人材の確保が喫緊の課題だ。賃金水準の高いIT(情報技術)業界などと採用戦線で渡り合うには、他業界に見劣りしない待遇も必要となる。トーヨータイヤは「過去5年で大手企業平均の累計12.6%を上回る13.1%の賃上げを実施した」という。

しかし、賃上げの原資は無尽蔵にあるわけではない。特に日本は解雇のハードルが高く、労働市場の流動性にも乏しい。電動化やソフト開発の目算が狂えば、経営の重荷になるリスクもある。採用戦線を勝ち抜くには、次世代技術や新規事業の育成、生産性向上などと一体の〝多正面作戦〟を進める必要がある。

※日刊自動車新聞2024年(令和6年)4月9日号より