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連載「JAMA 2023 大学キャンパス出張授業」(1)スズキ 鈴木 俊宏社長

スズキの鈴木俊宏社長は9月27日、九州工業大学戸畑キャンパス(北九州市戸畑区)で「次の100年に向けた新しい取り組み」をテーマに講演した。鈴木社長は「軽自動車に代表される小さな車づくりで培った技術で、より多くの人に自由な移動だけでなく、楽しさやワクワク感を提供し、大きな未来を切り開いていきたい」と語った。学生に向け「一人でも多くの皆さんが一緒になって、ものづくりや環境に優しい社会づくりに知恵を絞ってくれるとうれしい」と呼びかけた。

「47万円アルト」を含め、スズキの足跡を紹介

講演では「挑戦の連続だった」と語り、創業103年の足跡を紹介した。「スズキの歴史を大きく変えた」という「47万円アルト」の誕生秘話や、四輪車販売シェアトップを誇るインド市場への進出の経緯などをエピソードも交えて話した。強みとする海外戦略では、「異国文化に触れながら、現地スタッフとともに何かを成し遂げるのもグローバルビジネスの醍醐味だ」と力を込めた。講演後は、屋外でスズキの四輪車と二輪車に触れながら、和気あいあいとした雰囲気の中で学生らと歓談した。

学生との主な質疑応答は次の通り。

―国によって車の値段は違うのか。日本とインドでは

「今はインドの方が高いかな。日本はモデルチェンジの時しか価格改定のチャンスがないのに対し、海外は年に1回とか、定期的に値段を変えやすい。ここが大きく違う。半導体不足とか原材料費の高騰などで一番、苦労しているのは日本だ。海外は『これで大丈夫か?』と思うくらい車の値段が上がっているが、日本はなかなか値上げが難しい。日本と海外のモデル情報が手元にないので単純比較はできないが、日本だと200万円くらいのジムニーが海外だと300万~400万円くらいかな」

―インドで生産工場のオペレーターが課題とは

「品質と安全を確保して車を生産するには、オペレーターの役割が非常に重要だ。正確な作業をルーティンにするには、少なくとも半年はかかる。リズムが狂うと生産量が変動するため、同じ作業を安定的にこなす必要がある。作業のペースが変われば、ベテランでもミスが起きる。例えば、軽自動車1台を1分でつくると決めたら、1年間ずっと1分で稼働することが大切になる」

「25万台の生産工場をつくるとなると、そこに関わる人員は2千~3千人。インドの新工場には、車づくりの経験がない人もいる。同じリズムで安全に品質を確保した車づくりができるまで育成に時間をかける必要がある。オペレーターには1日900台つくるうちの1台でも、お客さまにとっては自分だけの大切な1台だ。しっかりした品質の車を届けたい。だから、インドのオペレーター育成は、将来に向けての大きな課題だ」

スズキの二輪車にまたがる学生たち

―人生で一番の逆境と、それをどう克服したのか

「逆境はいっぱいある。自分だけではどうにもならないことが多くて、周りの人に大変、助けられた。とにかく一人で抱え込まないこと。困った時には、自分の考えを伝えながら相談し、アドバイスを受けることが大事だ。抱え込むと、上司も救いの手を伸ばしようがない。上司は失敗だらけだから、経験も豊富だ。必ず相談に乗ってくれるし、アイデアをくれる。どこに行こうが、何をしようが、逆境なんていっぱいあるし、悩むことも絶対ある。それを相談し、支えてくれる先輩や同僚、友達を作り、抱え込まずに前を向いて進んでほしい」

日本自動車工業会(豊田章男会長)は、会員メーカーの経営トップらが講師となり、将来を担う大学生や大学院生に自動車産業の魅力や自身の仕事観などを語る「大学キャンパス出張授業」を今年も開いた。主な講義を開催順に紹介していく。

※日刊自動車新聞2023年(令和5年)11月28日号より