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SOMPO・損保ジャパン、ビッグモーター問題でトップの情報共有なぜなかった? 解明が急がれる社外委の調査

ビッグモーター(和泉伸二社長、東京都港区)をめぐる問題で、SOMPOホールディングスが立ち上げた社外調査委員会による調査が進んでいる。損害保険ジャパンの白川儀一社長が引責辞任を表明した会見では、親会社の最高実力者である櫻田謙悟SOMPOホールディングス会長が問題を把握できていなかったことが浮きぼりになった。また、ビッグモーターの危険な体質に、損保ジャパンの社員がなぜ早く気付かなかったのか、どのように情報が共有されていたのかも疑問が残った。調査でもこれらが焦点になるとみられる。

白川社長は2022年7月6日の役員会議で、停止していたビッグモーターとの取引再開を決めた。同社の不正を知りながら、かつ慎重論を唱える幹部がいながらの判断だった。有力取引先である同社との関係や、競合他社に保険取引を奪われることを心配してのことだ。この経緯が表面化し、「大きな経営判断ミスだった」と辞任に追い込まれた。

櫻田会長もメンバーである取締役会に諮らなかったことについて白川社長は、「不正が局所的なもので取締役会にかけるほどのものではないと思った」という。櫻田会長は「もっと早く相談してほしかった」と会見で語った。白川社長によると、「ビッグモーターのことが取締役会で議題になったことはない」としている。

櫻田会長がビッグモーターの問題を初めて知ったのは、22年8月29日の一部報道だったという。2日後の31日に定例会議(白川社長は出張で欠席)で報告を受けた。櫻田会長は「このときの報道で、ビッグモーターがうちの大きな代理店であったと初めて知った」と会見で話した。

櫻田会長がビッグモーターをよく知らなかった点については、同社は損保ジャパンと経営統合した旧日本興亜損害保険の取引先だったためという見方や、櫻田会長が19年4月から23年4月まで経済同友会の代表幹事で忙しかったこと、最近の関心が介護事業に向いていたこと、などが指摘されている。

ただ、著名な財界人で他社の不正にも厳しく発言してきただけに、会見では櫻田会長の責任を問う質問が多かった。結果的にグループの最高責任者に重要な情報が届かなかったこと、共有されなかったこと自体、「企業統治上の大きな問題ではないか」と問われた。「(役員報酬で)5億円(4億7700万円)をもらっていながら何をしていたのか」という指摘もあった。これに対し、櫻田会長は「(外部弁護士による)調査委員会の結果次第だ」としたものの、「現時点での辞任可能性は『ゼロ』だ」とも述べた。

一方、損保ジャパンの現場は、ビッグモーターの体質に気付かなかったのか。同社には04年度以降、延べ43人が出向している。修理費の査定手続きを簡略化できる「簡易調査」をビッグモーターの全工場に導入したのは19年4月。ただ、すぐにビッグモーターの見積額が「過大」になってきた。さらに、ビッグモーター側の簡易調査の見積もり作成部署「プライシングチーム」に、損保ジャパンは20年9月から3カ月、社員を担当部長として出向させている。「見積指導」を行っていたという。出向者がビッグモーターの見積もりの異変に気付いていた可能性もある。

また、ビッグモーターについて消費生活相談窓口に寄せられた相談件数は、19年度には1千件を超え、20年度以降は中古車関連の2割近くを占めるようになっていた。損保との付き合いも深い中古車業界では、ビッグモーターの評判も広く知られていたとみられる。このような情報が経営トップに共有されていたのかどうか、調査報告書のとりまとめに向けた論点になりそうだ。

(小山田 研慈)

※日刊自動車新聞2023(令和5)年9月15日号より