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自動車業界トピックス

〈ニュースの底流〉G7サミット閉幕、カーボンニュートラル「多様な道筋」を再確認

認められた日本の主張

先進7カ国首脳会議(G7サミット)が21日、閉幕した。自動車分野では、4月の担当大臣会合で共有した、電気自動車(EV)だけに偏らない「多様な道筋」で保有車を含めた二酸化炭素(CO)排出量を削減する重要性を首脳会議でも再確認した。議論の過程ではEVシフトの目標値をめぐるやりとりもあったが、今回は議長国である日本の主張に沿った方向性を共有した格好だ。ただ、欧米が主張を撤回したわけではない。今後も相次ぐ国際会議の場で、日本は粘り強く働きかける必要がある。

出典:首相官邸HP

ドイツで昨年6月に開かれたG7サミットでは、交渉終盤にゼロエミッション車(ZEV)の具体的な販売比率目標が成果文書から削除された。「特定の技術に絞らず、地域に最適な手段でカーボンニュートラル(温室効果ガス排出実質ゼロ)を目指すべき」とする日本の主張が認められたためだ。

その後も、G7広島サミットに向け、自動車産業は官民一体で日本の主張の正当性を各国にアピールしてきた。政府の働きかけに加え、日本自動車工業会(豊田章男会長)も米国や欧州の自工会での〝仲間づくり〟を推進。4月には両自工会とともに「多様な道筋でカーボンニュートラルを目指す」とする共同声明の発表にこぎ着けた。

4月に札幌で開かれた気候・エネルギー・環境大臣会合の共同声明では、G7として初めて保有車両におけるCO削減の必要性を盛り込んだほか、日本政府の目標を整合した「2035年に新車販売の100%を電動車に」という文言が盛り込まれた。

議論の終盤で成果文書が変わったドイツの事例があるだけに、自工会はG7サミットの開催に合わせ、副会長を広島に集め、さまざまな環境対応車も海外メディアなどにアピールした。最終的にまとまった広島サミットの共同声明は札幌の内容がほぼ踏襲された。自工会幹部は「(主張の)妥当性が改めて認められた」と胸をなでおろす。

ただ、EVシフトを強力に進める欧州や、自国の自動車産業の再興を目指す米国の圧力が弱まったわけではない。欧州も一枚岩ではなく、合成燃料の使用を前提に35年以降も内燃機関の販売を認める方針に転じた。「多様な選択肢が重要であることに気づき始めている」(自工会の三部敏宏副会長)との指摘もあるが、総意としてはEVシフトを堅持する。米国ではインフレ抑制法(IRA)でEV関連産業の誘致を推進する。

今年は9月にインドで主要20カ国・地域首脳会議(G20サミット)が、11月にアラブ首長国連邦で第28回気候変動枠組条約締約国会議(COP28)が開催され、来年6月にはイタリアでG7が開かれる。

経済産業省は「自動車メーカー自身が今の変化に向き合いつつ、情報を発信していくのは重要だ。今回の広島はその機会の一つになったのではないか」(自動車課)と話す。EVをめぐる議論が先鋭化しがちな中、日本としては引き続き官民一体で「敵は炭素」(豊田会長)という正論を粘り強く国際社会に訴えていくことが求められる。

(水鳥 友哉)

※日刊自動車新聞2023年(令和5年)5月23日号より