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自動車業界トピックス

国交省、自動車検査員の実態調査へ 全国の指定工場を対象に

相次ぐ不適切検査や行政処分の増加を受けて

全国の指定整備工場を対象に実態を調べる

国土交通省は、自動車検査員の実態を調査する方針を明らかにした。ビッグモーター(和泉伸二社長、東京都多摩市)をはじめ、不適切な検査業務などの発覚が相次ぐ中、「みなし公務員」である自動車検査員の解任を命じる行政処分件数も増加傾向にある。国交省は、全国の指定整備工場を対象にした調査で実態を把握し、自動車検査員が法令を順守しつつ、適正に業務を行える環境を整備する。

自動車検査員は、指定整備事業者に勤務する民間の社員ではあるが、本来、国が行うべき自動車検査(車検)を代行する立場上、自動車検査員服務規程で「身分は公務に従事する公務員と同等とみなされる」とし、みなし公務員に指定されている。

国家資格の分類の一つである「業務独占資格」にも該当し、検査についての判定と指示に関する権限について「社内における組織、職位および就業規則など、社内規定にかかわらず検査員が有するものとする」といった強い職務権限を持つ。

こうした身分保障や職務権限の規定にも関わらず、自動車検査員が不正車検に手を染める背景について「社員でもあるため、会社の指示に抗うことが難しいのではないか」と指摘する声もある。

国交省は、「自動車検査員がみなし公務員である自身の立場を認識し、公正、厳格に検査を行える環境を事業者が整備することが重要である」との考えだ。このため、自動車検査員の働き方などに関する実態調査を決めた。開始時期や手法などについてはこれから詰める。

ビッグモーターの不正車検事案では、国交省が一斉に立入検査した34事業場で、点検整備料金の過剰請求、検査の一部未実施、点検整備記録簿の虚偽記載などの道路運送車両法違反を確認し、同省は10月24日に行政処分などを行った。いずれの事業場も10~90日間の特定整備事業停止とし、うち12事業場は「指定自動車整備事業の指定取消」、11事業場は最大180日間の車検業務停止とした。自動車検査員の解任命令は24人にのぼった。処分対象者は2年間、自動車検査員に就くことができない。

国交省は、同社の不正車検事案を非常に重く受け止めている。斉藤鉄夫国交相は、自動車の安全に関わる体制についてしっかりと取り組んでいくよう省内に指示した。

国交省の「指定工場の処分件数の推移」によると、自動車検査員解任の発令件数は増加傾向にある。22年度は45人で、コロナ禍前の18年度と比べて倍増した。今年度の見通しはビッグモーターの不正車検事案などでさらに増える可能性がある。

整備士不足が深刻化する中、ビッグモーターなど一部の事業者による悪質な不正事案が業界全体に及ぼす影響は無視できない。国交省は、自動車検査員の実態調査などを通じ、車検制度の信頼回復と整備業界の風評被害防止にもつなげていく考えだ。

みなし公務員=公務員ではないが、職務内容が公務に準じたり、公務員の職務を代行するとして、公務員の扱いを受ける者を指す。守秘義務のほか、公正な職務執行を担保するための贈収賄罪や虚偽公文書作成罪などが適用される。自動車検査員のほか、駐車監視員、自動車教習所の技能検定員などもみなし公務員に当たる。

※日刊自動車新聞2023年(令和5年)11月21日号より