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連載「JAMA 2023 大学キャンパス出張授業」(5)日産自動車 内田誠社長兼CEO

日産自動車の内田誠社長兼最高経営責任者(CEO)は、横浜国立大学の常盤台キャンパス(横浜市保土ヶ谷区)で講演した。気候変動問題や不安定な世界情勢など事業環境が不透明な中、内田社長は「今までの延長線上に未来は描けない」と強調し「居心地が良いコンフォートゾーンを飛び出す勇気と経営視点での覚悟が必要だ」と語った。

「日産が描くモビリティの未来」をテーマに講演した。内田社長は、日産が長期ビジョンとして掲げる「アンビション2030」を軸にモビリティの進化の方向性を説明し、全固体電池などクルマの技術進化とともに、電力を社会全体で有効活用するエコシステム(生態系)の形成に向けた取り組みを紹介した。

同大学出身の従業員とともにに学生の質問に答える内田社長

講演会場には約200人の学生が集まった。内田社長は「多様な人に新しいモビリティを提供するためにはZ世代など若手の視点が欠かせない」とも語り、自動車関連企業への就職を検討する学生に期待を示した。

内田社長と学生の主なやり取りは以下の通り。

―思い入れのあるクルマは

内田社長「商社にいる頃からスポーツカーが大好きで、入社2年目に買った『フェアレディZ』が特に思い入れがあるクルマだ。それ以外でも、自分は土日に会社に来て、さまざまなクルマをテスト走行したり、自分のクルマを洗車したりする。洗車をしているとクルマの造形のこだわりを発見できる」

―仕事をする上で心がけている点は

内田社長「大事にしている言葉が3つある。1つ目は『透明性をもって論議すること』。文化や立場が違っても全てをテーブルの上にさらけ出して論議する。2つ目は『リスペクト』。お互いに尊重しあうことだ。3つ目は『トラスト』。1つ目と2つ目ができれば信頼につながる。この3つをいつも大切にするようにしている。また、日々、勉強することも大事だ。学生時代はアメリカンフットボールやヘビーメタルバンドなどの活動に力を入れていたこともあり、正直に言うと、会社に入ってから苦労した(笑)。会社に入ってから常に勉強することを心がけている」

講演終了後にはマンツーマンで学生とやり取りするシーンも

―カルロス・ゴーン元会長の問題について内田社長の考えを聞きたい

内田社長「その話をすると3年くらいかかる…。過去を振り返ると、1999年に会社が危機に瀕している時に助けてもらった。その時代に応じた経営手法が当時はあった。しかし、時代の変化に対する適応能力は足りていなかった。その歴史の中でああいうことが起こってしまった。経営をやる上で時代に適応する力は非常に重要だ。この4年間、当社は販売の質の向上を進めており、非常にうまくいっている。ルノーとの資本関係見直しというニュースを知っているかもしれないが、世界の各市場が分断される中、資本構成のあり方がどうあるべきかを議論してきた。変化することに勇気と覚悟を持たなければいけない」

―会社に入ってからの失敗談は

内田社長「自分もたくさん失敗をしてきた。ただ、何を失敗と(定義)するかという価値観の違いもある。組織の中にいると、どうしても染まってしまう。そうすると向かうべき方向性を見失ってしまう。例えば、朝起きて歯磨きと洗顔のどちらを先にやるか。明日から順序を変えることを嫌がる人は多い。3カ月前に妻から良い教育を受けたので伝えたい。私のクローゼットにはバンドをやっていたころの革ジャンを大事にしまっているが、妻から『その服が似合う時はもうないよ』と、〝断捨離〟を促された。妻の話を聞いて会社も同じだと思った。自分を作ってきた過去のものは正しいと思いがちだが、それが将来も最適とは限らない。良いものを残し、要らないものは変える。これが非常に重要なことだ」

※日刊自動車新聞2023年(令和5年)12月5日号より